2022.04.12
イタリア・ミラノから「くいしんぼうのイタリア食ノート」が届きました!
食をより深く研究するために、現在イタリア・ミラノへと単身渡っている一粒万倍グラノーラのオーナー・板垣 香織。
月に2回ほどのペースでイタリアからの情報をお届けしています。
その名も「くいしんぼうのイタリア食ノート」。板垣が感じるイタリアをどうぞお楽しみください!
【くいしんぼうのイタリア食ノート Vo.3】
パスタとピザとジェラートだけじゃないイタリア。
わたしはアメリカにすっかりかぶれている。高校生の頃からアメリカの黒人文化に憧れて、20代で横田基地でアルバイトをし、30代でNYへ留学した。まさかその後、イタリアに留学をすることになるとは夢にも思わなかったので、イタリアに対する知識はガイドブックの情報のみ。観光で行ったことのある友人から「イタリアのご飯は美味しいし、イケメン揃いで、本当に楽しいですよー!」と何度となく聞かされ、いい歳をしたわたしでも気分が上がったのは間違いない。そんなウキウキ気分でたどり着いてまもなく、その情報はミラノでは通用しないことが判明し、わたしは今、少し困惑している。
ミラノに到着した翌日、イタリアらしいことをしようと思いついたわたしは、滞在先の近所を散歩しながら見つけたジェラート屋にかけこみ、早速初ジェラートを食べてみた。げんこつ大のイタリアンサイズのジェラートは少し甘すぎたが、とっても美味しく「あー。わたし、イタリアにいるのね・・。」とイタリアのイケメンを眺めながらひとり感慨にふけっていた。それから数か月、美味しいと言われる有名店にもいくつか通ったけれどその時以上のジェラートに出会えていない。
その数日後には、「さあ、お次はピザだ!」と意気込んで、入念にサイトをチェックしミラノの人気店に行ってみた。もちろんオーダーしたのはマルゲリータ。日本のイタリアンレストランで食べるピザの1.5倍くらいのでっかいピザが運ばれてきて、ドン!とテーブルの上に置かれたのを見て、もちろんわたしの胸は高鳴り、口からびよーんと伸びるモッツアレラチーズを日本そばのようにすすりながら「あー。わたしイタリアにいるんだ!」と感激していた。半分くらい食べた頃だろうか、突然その勢いが落ちはじめ、最後はピザを3つ折りにして口に押し込んでいたのだった。さずがの私でも、ホールピザ1枚を平らげるのは簡単ではなかった・・・。やっとの思いで食べ終えたころに、周りを見渡すと若い女性やマダム達も一人一枚ずつピザを食べている。「イタリア人、恐るべし・・。」と思ってしばらく様子を見ていると、ピザの中心だけ食べてふちの部分は全て残している。それからというもの、わたしのピザウォッチングは続いているが、女性のほとんどが中の薄い部分だけ食べて、周りの分厚い部分は残して食べていた。その後はピザを食べるたびに残ったふちの残骸がわたしを少し悲しくさせる。
そしてパスタだ。わたしが引っ越してから、大家さんがイタリアのマンマ式のパスタを食べさせようと意気込み、ジェノベーゼやカチオペペ、アマトリチャーナやカルボナーラを作ってくれる。「これが、本場のイタリアの味だなー。」と初めて食べたときの感動は忘れられない。けれど、このパスタが週に3回以上続くと辛くなってしまうのだ。どのパスタも本当に美味しいのだけれど、とにかく具が少ない。ジェノベーゼはバジルソースだけ、カチオペペはチーズとコショウ。アマトリチャーナはトマトとグアンチャーレ(イタリアのベーコンみたいなもの)、カルボナーラはアマトリチャーナのトマトが卵とチーズに変わったもの。そして、ほとんどがその一皿だけの食事だ。そう、ピザもパスタもジェラートも感動したのは最初の一皿。日本のイタリアンの質が高すぎるのか、NYでリトルイタリーに通っていたからか、横田基地のアメリカンピザを食べすぎたせいか、せっかくイタリアにいてもその3種は身近すぎて、わたしの中ではイタリア料理のカテゴリーから少し外れてしまったようだ。
しばらくの間、がっかりした気持ちが続いていたけれど、イタリア料理は他にも沢山の美味しいものがあることに気が付いてきた。最近では日本では食べられないイタリア料理を探すのが楽しみになっている。ミラノではサフランの黄色がきれいなミラノ風リゾットや牛肉を骨髄と一緒に煮込んだオソブッコ、ポルペッテ(イタリアのコロッケ)、ベルタータ(豆のポタージュスープ)、そしてポレンタ(トウモロコシの粉で作った固いお粥のようなもの)は今ではわたしの大好物になった。旬の珍しいイタリア野菜や季節のスイーツを食べるのもとっても楽しい。もちろん、各地方のチーズやワイン、生ハムも。最近はわたしが色々な野菜を買い込んで、サラダを作り始めたので、近頃の食卓は大家さんのパスタにわたしのサラダをプラスするのが定番ごはんになっている。一皿だけだった食卓に野菜が加わり、パスタ問題も解決に近づいている。そして、今では少しだけイタリアかぶれに・・・。
アメリカや日本と違って、食べ物に対して保守的なイタリアの文化は各地域の特産を守り、伝統的な料理をきちんと伝えてきた。そのことが他の国でもレベルの高いイタリアンを食べることができる要因なのだと思う。もちろん、パスタやピザもその一部。わたしもイタリアと言えばパスタとピザとジェラート!と思っていたけれど、イタリアにはもっともっと美味しいものが沢山ある。自由に旅行ができるようになったら、是非イタリアに来て試してほしい。