2022.05.19
イタリア・ミラノから「くいしんぼうのイタリア食ノート」が届きました!
食をより深く研究するために、現在イタリア・ミラノへと単身渡っている一粒万倍グラノーラのオーナー・板垣 香織。月に2回ほどのペースでイタリアからの情報をお届けしています。その名も「くいしんぼうのイタリア食ノート」。板垣が感じるイタリアをどうぞお楽しみください!
【くいしんぼうのイタリア食ノート Vo.4】
明るくて悲しいイタリア。
ミラノに来てしばらく経った頃、ウォーキングに来ていた公園のベンチで休憩を取りながら、家族連れや散歩をしている人々をしばらく眺めていたことがある。「ミラノに来たんだなー。」とじんわりと実感が沸いてきたと同時に、なぜか悲しい気分もじわじわと襲ってきた。もうホームシックが始まったのか!と思ったけれど、少し早すぎではないか。大学院も始まり、イタリア人の友人や大家と話す機会も増え、学生生活も楽しくなってくるはずだったけれど、何かが違う・・。
イタリアと言えば、おしゃれで明るいラテン男と美味しいイタリアン!ほとんどの日本人が持つイタリアのイメージだ。もちろん、わたしもそう思ってミラノに来た。
けれど、ミラノで暮らすようになると、日本人の「イタリア」のイメージが偏っていることが気になり始める。確かに、イタリア人男性のスーツはキュっとウエストが締まっているし、シャツを腕まくりした姿は本当に素敵だ。朝のカフェで、さっとエスプレッソを飲んで立ち去る姿も様になっている。ミラノのジェラートもピザも美味しい。けれど、思っていたのと違う。なぜだか悲しいのだ。
そして、その理由が少しずつ分かってきた。人々が笑っていない・・。地下鉄も、エレベーターも、すれ違う人たちもみんな笑っていないのだ。アメリカで頬の筋肉が鍛えられそうになるほど作り笑いを練習した私は、イタリア人もアメリカ人のように他人でも笑顔で挨拶を交わすものだと思っていたのだ。話を聞いてみると、どうやら特にミラノは特にクールな人達が多いらしい。「南の方は違うと思うよ!」といわれたことが何度もあるけれど、南イタリアは違う雰囲気なのだろうか。
元々、イタリアは地域性が強くクラスの友人もローマ人、ナポリ人、シチリア人などそれぞれの個性を強く持っていて、地元愛がかなり強い。もちろん、家族の絆も強いのだけれど、それが排他的で保守的になっている一面もあるのだ。「ミラノで仲の良い友達を作るのは本当に難しいのよ。」と大家が言った時には、本当にびっくりしてしまった。イタリア人のイメージからは正反対かもしれないけれど、「知り合い」は沢山できても、「家族や親せき(その親友)」などの外にいる人達がその仲間に入るにはかなり長い時間がかかるというのだ。そして、家族や親せきの中では、嫁姑問題があったり、マザコン息子がいつまでも家に居座っていたり、常に近所や親せきの目を気にしながら暮らしている。その辺は日本と似ている点かもしれない。
もちろん、食に対してのこだわりも半端ではない。ナポリのピザ、ジェノバのジェノベーゼ、ミラノのリゾット、シチリアのグラニータなどなど、数えきれないほどの美味しいものがイタリアにはある。けれど、それぞれの地域の料理のスタイルは完全に固定されていて、アレンジは許されない。どこのピザ屋でもマルゲリータが一番人気だし、具もほとんど変わらない。
そんな保守的な空気と、笑顔の少なさに悲しくなっていたけれど、最近は少し慣れてきた。今ではすっかり大家の家族の一員のようになっているし、そうなると毎日うっとうしいくらいおせっかいでおしゃべりで、朝から明るい笑顔で私を迎えてくれる。
ミラノに来てから見た「The Hand of God」という映画がある。機会があったら是非見て欲しい作品だ。ナポリを舞台にした監督の自伝的映画で、主人公の青年の成長と家族を描いた物語。家族の食卓の明るいシーンと個人が抱えている問題のコントラストがわたしの感じたイタリアそのものだった。イタリア人は保守的で悲観的だからこそ、自分の人生や運命を変えたいと思っていて、サッカーに熱狂したり、芸術に夢をみている気がする。
イタリア人は悲しみを抱えているから明るいのだ。
写真は、大家さんと一緒に作ったご飯
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【筆者】板垣香織(Kaori Itagaki)
東京と神戸を拠点として活動中。建築家。デザイナー。
イートリートフード&デザイン代表。一粒万倍グラノーラ運営。
k2-foundation architect and design主宰。
米コロンビア大学東アジア研究所/建築・都市計画学科へ客員研究員として留学中に
アメリカの食文化に触発され「意(意匠)・食・住」を考える活動をスタート。
建築設計・デザイン、アート&フードディレクション、企業への商品企画などを行っている。
2021年より、イタリア・ミラノにあるミラノ工科大のデザインスクールにて、
「Design for Food」という分野で、新しい学問としての”食”をより深く研究している。